富山県砺波市・庄川地区とその周辺にあるおいしいものを、全国にお届けしているオンラインショップ「庄川温泉郷商店」。全国のみなさんに、もっとその土地にある物語を知ってほしくて、この「さとの暮らし」は生まれました。庄川の文化や暮らしにまつわる物語を、月に1回発信していきます。
今回は、北陸では富山と福井の一部、しかも神通川沿いと庄川沿いにだけ自生するという貴重な桜、「エドヒガン」のお話をご紹介します。
サクランボを食べて飛んでいたら、繁殖していました
桜を見ると、春の訪れを実感しますよね。毎年4月になると、庄川地区では、小牧発電所対岸から弁財天対岸までの庄川右岸、通称「砺波嵐山」の山腹に100本以上のエドヒガンが咲き誇ります。この桜は太平洋側に多く見られる樹種で、北陸では富山と福井の一部だけ。しかも、神通川沿いと庄川沿いにだけ自生しているのだそうです。庄川地区の人が毎年見ている光景は、珍しく貴重なものなのですね。
では、なぜ、エドヒガンが自生しているのでしょうか。その理由は、庄川と野鳥にあります。野鳥は、天敵を避けながら食べ物を見つけて生き抜くために、季節の変化に合わせて南北を結ぶ川沿いの山里を移動しています。その好物のひとつが、桜の果実(サクランボ)。川に沿って飛びながら、ふんと一緒に果実の中の種を落としていきます。
太平洋と日本海を結ぶ川こそが、長良川と庄川。長良川は、岐阜県蛭ヶ腹高原の分水嶺を越えて、庄川に連なっています。だから、太平洋側に咲いたエドヒガンのサクランボの種が野鳥を通して庄川沿いに舞い落ちるのです。自由に飛んでいるように見える鳥たちが、エドヒガンの繁殖、そして人々の春の楽しみに貢献していたとは。空に向かって、ありがとうと言いたい気分です。
湯に浸かりながら、加賀藩の殿様が見た桜を
江戸時代の初めには、砺波嵐山のエドヒガンが、加賀藩の殿様に献上されました。山から掘り取って高岡に持参したのは、4人の大庄屋(加賀藩では十村と呼ばれる村の有力者)。「殿様に見せるために、格好の良いうば桜(エドヒガン)を34、35本ほど急いで掘って献上できるようにすること。2〜3日のうちに渡すことができなければ、意味をなしません。吟味して美しく包装して持参するように」という依頼状のような古文書が今に残されています。なかなかハードな要求に思えますが、4人は依頼どおりに選りすぐりの多数の桜苗を掘って高岡城に献上したそうです。
時代が変わっても、「美しさ」を感じる心は変わらないものなのですね。その他にもいろいろな地域に桜苗を持参して植えたそうです。今、県西部で見るエドヒガンは、庄川生まれなのものかもしれません。
山の緑に桜のピンクが映える様を、鏡のように映す庄川。砺波嵐山には、エドヒガンだけでなく、人の手によって植えられたソメイヨシノもあります。開花時期はエドヒガンの方がやや遅めですが、少しだけ重なる時期があるので、その時に2種類の桜の違いなどを楽しんでみてください。対岸からのベストショットを見つけるのもいいかもしれませんね。
その頃には「庄川峡桜まつり」が開催され、夜にはライトアップも楽しめます。日中に見る景色とはまた違う、夜桜の風情をじっくり鑑賞した後、温泉旅館でお湯に浸かれば、心身ともに癒されることでしょう。庄川地区の豊かな自然を存分に味わってください。
■この話を教えてくれた人
砺波市教育委員会 砺波市立砺波郷土資料館
副館長・脊戸高志さん
■参考文献
「土蔵9号」 桜雑記詳解 富山県ナチュラリスト協会 松岸得之助
「土蔵14号」 金子宗右衛門の桜献上 間馬秀夫
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