2022.1.1

鯉よ、ありがとう。わたしの厄を庄川で洗い流しておくれ。

 富山県砺波市・庄川地区とその周辺にあるおいしいものを、全国にお届けしているオンラインショップ「庄川温泉郷商店」。全国のみなさんに、もっとその土地にある物語を知ってほしくて、この「さとの暮らし」は生まれました。庄川の文化や暮らしにまつわる物語を、月に1回発信していきます。今回は、200年以上続く奇祭「厄払い鯉の放流」をご紹介します。

生命力への驚きが、奇祭のきっかけ

 庄川地区をゆったり流れる庄川。よく見ると、鯉が泳いでいるではないですか。そう、庄川地区には、厄年の男女が、開運・長寿などを願い、鯉に御神酒を与えて庄川へ放流するという奇祭「厄払い鯉の放流」が根付いているのです。

 

 始まりは、今から200年以上前のこと。地元の金屋神明宮が山の上から下に移された時に、遷宮祝いとしてお祭りが行われ、若者たちが庄川で捕まえてきた鯉を生きたままの状態で神様にお供えしました。それから、飲めや、歌えやで長時間にわたって騒いだ後、鯉を食べようと思ったら、なんと生きていたのです。みんな、ビックリ。「こんなに生命力の強いのだから、自分たちの厄を託そう」と、鯉にお詫びの気持ちを込めて御神酒を与え川に放ったことが、金屋神明宮の厄除祈祷祭となり、今の「厄払い鯉の放流」につながっています。

 余談ではありますが、鯉は御神酒を飲んでも、エラから抜けていくので酔わないのですよ。

みんながハッピーになるイベントへ

 伝統的な神事が、観光客向けのイベントへ変わっていったのは、今から約40年前。富山県が「いきいき富山観光キャンペーン」を施行し、各自治体に観光誘致のための補助金を提供したのがきっかけでした。庄川地区の話し合いの場で、新たな事業として真っ先に挙がったのが、「厄払い鯉の放流」だったのです。全国的な奇祭をもっと広めるために、展望台をはじめ、水辺や遊歩道の整備、赤い鳥居などが作られたほか、25歳の男性だけでなく、42歳の男性と33歳の女性も参加できるようになりました。

 市町村合併によって新たな砺波市が誕生した平成16年11月は、ちょうどパワースポットに火がつき始めた頃。展望も時流に乗せようということで生まれたのが、厄払い・開運祈願の「鯉」と縁結び・恋愛成就の「恋」を組み合わせたパワースポット「鯉恋の宮」です。奇祭を具現化して分かりやすくするために、女の子の「こいっぴ」と男の子の「ふくっぴ」というキャラクターも作りました。それからは、防災協定を結ぶ愛知県安城市にぷくっちを単身赴任させ、年に2回だけこいっぴとの対面式をそれぞれの祭りに合わせて開催するなど、いろいろな仕掛けを施してきました。友好協定を結ぶ群馬県・伊香保温泉にも、もしかしたらぷくっちを単身赴任させる日が来るかもしれません。

 庄川地区の人が大切にしているのは、人とのつながり。地元でどんなに面白いことをしていても、知ってもらえる努力をしないことには、誰にも来てもらえません。だから、他県にも働きかけてきたのです。「厄払い鯉の放流」に関わるみんなが、明るく楽しくなるという方法で。その気風も、庄川地区の良さかもしれません。

毎年1月7日には、この「鯉恋の宮」の下の水辺で、「厄払い鯉の放流」が開催されます。通常の厄払いよりもはるかに記憶に残る体験をぜひ。

この話を教えてくれた人

このお話をうかがったのは、庄川峡観光協同組合の専務理事を務める川崎和夫さん。事業部門の責任者として、日々活躍中。庄川地区出身と、生粋の地元っ子でもあります。

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