富山県砺波市・庄川地区とその周辺にあるおいしいものを、全国にお届けしているオンラインショップ「庄川温泉郷商店」。全国のみなさんに、もっとその土地にある物語を知ってほしくて、この「さとの暮らし」は生まれました。庄川の文化や暮らしにまつわる物語を、月に1回発信していきます。
今回は、全国からも秘湯ファンが訪れるという「湯谷温泉」をご紹介します。
たくさんの心身を癒してきました
日々の仕事や家事、育児などで、疲れがたまっていませんか? 現代を生きる私たちは体調不良時には薬に頼りがちですが、かつての人たちは疲れた心身をお湯で治すという「湯治」という方法をとっていました。温泉地に長期間宿泊してお湯に浸かり、自分の自然治癒力を高めていたのです。そこまで休みを取るのは難しくても、なんとか時間を捻出して、もっと自分を大事にしたいものですよね。
明治時代、庄川地区の湯治場として有名だったのは、小牧ダムの近くに「湯谷」という地域。江戸時代から、庄川の川の中から何箇所も温泉が湧き出ている場所だったそうで、平家の落人が傷を癒したという伝説もあるそうです。
湯谷は、明治24年に当時の砺波郡の郡長の支援のもと、有志が試掘を重ねて温泉として開湯したのを機に次第に繁盛したといわれています。さらに、湯治場に「湯谷温泉」が開業したのは大正時代。温泉旅館のような形で営業を始めたと考えられています。田植えが終わる6月10日前後には、さぞかし多くの人々で賑わったことでしょう。大正14年(1925)に着工した小牧ダム建設の際には多くの関係者が宿泊し、夜高行燈が終わった後には多くの地元民が訪れたといわれています。小牧ダムが完成した昭和5年(1930)以降は、川の中の数カ所から湧き出ていた温泉の源泉がダムの下になり、そのほとんどが見られなくなってしまいました。湯谷温泉の源泉だけが、今に受け継がれています。
加水も加温も不要、そのままで高品質
かつては、湯治の温泉旅館だった湯谷温泉。平成24年からは、湯治場としての営業は行わず、日帰り入浴のみの施設となりました。館内には休憩所がないため、お湯に浸かるだけ浸かって帰るという流れになります。それでも全国各地から数多くの温泉好きが訪れているのは、独特の佇まいをした浴室と豊富すぎる湯量、胃腸に良いと評判の泉質(ナトリウム・カルシウム塩化物泉)にあるといえるでしょう。
浴室は、天井や壁など隅々から年季を感じさせる薄暗い洞窟のような空間で、洗い場がなく、ほぼ湯船しかありません。源泉は、銀の筒型をした湯口から勢いよく湯船に注がれ、浴室内にあふれ返えるほど豊富です。しかも、加水や加温、循環、消毒のすべてを行う必要がありません。そのままでハイクオリティな温泉なのです。色は透明で肌ざわりもやわらかく、ほどよい温かさ。ゆったり浸かっていると、じわじわ芯から温まれるのも癖になりそう。お風呂から上がったら温泉成分を洗い流さず、そのままタオルで水分を拭き取って服を着ましょう。そうすれば、「きりきず、末梢神経障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症」に効果があるみたいですよ。
湯谷温泉は、地元の資源をフル活用した好例。ありのままで存在しているだけで、多くの人を癒しています。この温泉に浸かることで元気になれば、誰かにもパワーをおすそ分けできる存在になれるかもしれません。
■この話を教えてくれた人
このお話にご協力いただいた方は、砺波市教育委員会 砺波市立砺波郷土資料館 副館長の脊戸高志さんと、湯谷温泉の3代目女将です。
■参考文献
日本歴史地名大系第16巻「富山県の地名」
「村々のおこりと地名」榎木淳一著
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